AI先進国はどこ?アメリカ、それとも中国、ドイツ?
・AIの研究論文を多く排出している国は中国・アメリカ
・AI導入に向けての各国の取り組み
・AI人材はどの国に多いのか
中国の先進的な取り組みに日本は追いつけるのか
・・・
今世界では人工知能(AI)分野の研究が進められており、わが国においても国家予算を組んで、国を挙げて取り組んでいる状況です。総務省は「情報通信白書(平成28年版)」において、わが国の人材不足を補うために、AIを中心としたICTの進化が必要であると述べています。世界を見渡すと、AIによる経済効果は計り知れないとして、各国ではこぞって研究が進められています。そのため各国のAI研究者やアナリストは、2020~2030年にはさまざまな産業において変革が進んでいくだろうと見通しを出しています。ここではAIの研究が進んでいる国はどこなのか、各国においてどのような取り組みがされているのか、さらに日本のAI研究のレベルはどの程度なのか見ていきます。
AI先進国はどこ?アメリカ、それとも中国、ドイツ?
AIの研究は今、各国の科学分野において最重要な課題となっており、その取り組み状況は熱を帯びています。特に各国の研究論文は増加傾向にあり、今後優秀な研究者を育成していくことがAI分野成長の鍵を握っています。では現時点においてAI研究が進んでいる国はどこなのかお伝えします。
・AIの研究論文を多く排出している国は中国・アメリカ
オランダのエルゼビア社が分析した調査報告によりますと、AIの研究論文を数多く排出している国は「中国」であると、ドイツの機関紙「デア・シュピーゲル」において報告しています。この分析では、過去20年でのAI研究論文数がもっとも多い国が中国で約13万4000本、ついでアメリカが10万6000本、3位にはインドで3万5千本となってます。この数字を見てもあきらかで、世界の中でAIの研究をもっとも熱心に行っている国は中国とアメリカであり、3位以下は大きく引き離されています。この報告の中においても、今後3位以下の国が中国とアメリカを超えることは難しいだろうとしています。
ちなみに日本の研究論文数は約2万5000本であり、イギリス・ドイツとならんで6位であると報告されています。中国が多くの研究論文を排出している背景には、国が大学での研究に力を入れていることが分かります。各国のAI分野の技術者を招きいれ、研究環境が整った実験室で作業しているといわれます。各国の多くの人材は中国に流出している実態があり、特に「清華大学」「北京大学」でのAI分野の研究は有名となっています。またアメリカにおいても大学でのAI研究に力を注いでいます。特にAI分野で研究が進んでいる大学は「マサチューセッツ工科大学」「スタンフォード大学」「カーネギーメロン大学」などであり、大学のAI研究ランキングにおいても常に上位にランクインいます。ソニーはアメリカのカーネギーメロン大学と研究開発契約を締結し、家庭用ロボットの開発に取り組んでいます。この大学ランキングは教授陣、教育施設、論文数などによってジャッジされています。残念ながら日本の大学はこのランキングには入っていません。
・AI導入に向けての各国の取り組み
アメリカや中国がAI研究に対して力を入れている現状が理解できました。その他の国においても同じように環境を整え、世界で取り残されないようにしている状況が分かります。イギリスの経済誌「The Economist」の調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)と、スイスに本社があるABB社(産業用ロボット製作の大手)が共同でまとめた報告書を見ていきましょう。この調査は25カ国を対象に行われたもので、インテリジェントオートメーション(自動化の技術)に対する準備がどの程度行われているかを評価しています。「イノベーション環境」「教育方針」「労働市場政策」の3部門で調査されています。これで自国の経済システムに対して、どの程度のオートメーション技術とAI技術の導入を進めているかが明らかになります。報告書によりますと、もっとも導入を進めている国は「韓国」。ついで「ドイツ」「シンガポール」となっています。日本は4位となっています。
「イノベーション環境」での順位は、1位が「日本」。ついで「韓国」「ドイツ」。
「教育方針」では1位が「韓国」。ついで「エストニア」「シンガポール」。
「労働市場政策」では「韓国」「ドイツ」「シンガポール」を1位としています。
日本は「イノベーション環境」で1位ですが、「教育方針」「労働市場政策」では4位となっています。今後この取り組みは経済成長に対して大きな影響を与えるものであると考えられます。
・AI人材はどの国に多いのか
冒頭から申し上げてる通り、AIの開発には人材育成が不可欠です。そのため中国では大学において各国のAI人材を招いて研究に力を入れている実態があります。では現時点において、世界にはどのくらいのAI人材がいるのでしょうか。「Element AI」が公表している「グローバルAIタレントレポート2018」では、世界のAI専門家を「LinkedIn(ビジネス特化型SNS)」と「AI会議」を元に数値データにしています。その中で経験豊富で博士号取得の、技術的に熟練したAI専門家がもっとも多い国は「アメリカ」としています。ついで「イギリス」「カナダ」「ドイツ」「フランス」の順となっています。注目されている中国は7位。日本は9位、韓国は14位となっています。この数字だけで判断すると、中国ではまだまだアメリカに大きく引き離されている状況が分かります。アメリカの総人材数は12027人。これに対して中国は619人にとどまっています。日本は321人、韓国は168人。しかも2位のイギリスでさえも2130人ですから、いかにアメリカがAI先進国であることが分かるでしょう。タイムズ・ハイアー・エデュケーションが発表する論文から引用された「引用影響力スコア」を見てみると、中国の論文数は多いものの、世界の10位にも入っていないことが分かります。つまり中国は論文発表はどんどん行っているものの、まだまだ研究が最先端に追いついていない状況であることが理解できます。
中国の先進的な取り組みに日本は追いつけるのか
現時点においてアメリカと中国の取り組みは、日本がまったく太刀打ちできていないことを意味しています。アメリカの場合、ビッグデータを所有している政府に対してアクセスを簡単にしていますので、精度の高いAIアプリケーションの開発が可能です。顔認識、画像認識といった認識技術においてはかなり優位に立っているといえます。中国においては、国家主導のもとに自動運転者、ロボット、ドローンなどの事業を拡大し、中国経済の底上げを目指しています。またインテリジェントオートメーションに対する準備においては、韓国に離されているといえるでしょう。特に中国では政府と民間がいったいとなり、2030年にはAI分野で世界一を目指しています。これは中国の政府組織である「中国工業情報化部」と呼ばれる国務院が発表した「新世代のAI産業発展を促進するための3年行動計画(2018~2020年)」によるものです。
その内容は2020年には産業規模を2兆5500億円にまで引き延ばし、2025年にはAIを社会の中心にすると考えています。そのためソフト・ハード、IoT、ロボット技術、VRなどの開発を重点分野にしていくことを発表しているのです。日本の現状はAIに詳しいアナリストである日本総研調査部副主任研究員の田谷洋一氏によりますと、AI技術者が日本には少なくアメリカから集めなければならない現状だといいます。例えば自動運転の開発を進めているトヨタは、開発のためにシリコンバレーに新会社を設立しています。教育環境において遅れを取っている日本は、今後AI分野においてアメリカ・中国・韓国などに対し、どのような取り組みを見せていくのか注目せずにはいられません。日本はどの産業においても人手不足が顕著であるため、人手不足や技術継承を解決するためのAI研究が進められています。IoTの分野においては、日本の得意分野でもありますから今後注目すべきでしょう。
【参考】
経済産業省 ICTによるイノベーションと経済成長
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n1100000.pdf
Computer Science Rankings(Emery Berger)
http://csrankings.org/#/fromyear/2017/toyear/2017/index?all&world
The Automation Readiness Index (ARI): Who Is Ready for the Coming Wave of Innovation?
http://www.automationreadiness.eiu.com/
Element AI グローバルAIタレントレポート2018
Wikipedia タイムズ高等教育世界大学ランキング
Executive Order on Maintaining American Leadership in Artificial Intelligence
人工知能(AI)強国を目指す中国 日本総研調査部副主任研究員 田谷洋一
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/10456.pdf